つくば市のプログラミング学習、実践事例などをご紹介しています。

全ての学校で取り組むプログラミング教育

全ての⼦ども達にプログラミング的思考を育てるつくば市の取り組み

⽣活や学びをよりよくするプログラミング的思考

窓を開けて欲しいとき,⼈間は「窓を開けてください」の⼀⾔で⾏動することができます。ロボットに同じ動きをさせるには,向き,移動距離,腕の上げ下ろしなど細かい命令を順番に伝えないといけません。ロボットへの命令のように,問題や事象をいつくかの部分に分解して考えることが,プログラミングの基本です。単純に細かくすればいいのでなく,⽬的に応じて適切な⼤きさ(粒度)で分解することも⼤切でしょう。そこで,つくば市はプログラミング的思考を,次のように定義しています。

「理解や解決のために,問題・事象・活動等を分解して考えること」

いつもの何気ない活動も,⼀度⽴ち⽌まり,改めて⾒直す(俯瞰する・メタ認知する)ことで,沢⼭の要素から成り⽴っていることがわかります。幾つかの要素に分解することが出来たならば,順番を考え直したり,必要のない要素を省いたりと,⼯夫した活動をすることも可能になります。この⼯夫によって,⼦ども達はよりよい理解や問題解決ができると考えています。

「分解すること」は,イギリスで提案されているコンピューテーショナル・シンキング(CAS2015)にも明記されています。コンピューテーショナル・シンキングは,コンピュータを使った問題解決だけでなく⼈間だけで問題解決する場⾯にも応⽤できる(太⽥ら2017)としています。つまり,「理解や解決のために,問題・事象・活動等を分解して考えること」は,プログラミング教育だけに限ったことではありません。

⽣活や学びの様々な場⾯で役⽴つ考え⽅です。

プログラミングスキルとプログラミング的思考を同時に育成

第4 次産業⾰命を⽀える「IoT」「⼈⼯知能」「ビッグデータ」などの研究・開発や,それらを利⽤できる社会や⼈材の育成には,プログラミング的思考だけでなく,プログラミングスキルも要求されます。つくば市は,どちらかを重視するのでなく,コンピュータを使いプログラミングスキルを習得する中で,プログラミング的思考を育成することを第⼀に考えています。既に,全⼩中学校,全学年において⻑年にわたり先進的なICT 教育を実践していることを背景に,⼩学校1年⽣からコンピュータを使ったプログラミング教育を実施しています。詳しくは,次の章を参考にして下さい。

プログラミングで培ったプログラミング的思考は,⽣活や学びに活かすことが⼤切です。そこで開発しているのが,アンプラグド教材です。プログラミング的思考という“⾒⽅・考え⽅”を使い,アンプラグド学習を進めます。学習後にプログラミング的思考が,更に深まることを⽬指しています。

例えば,家庭科の調理実習では,コンロの数,包丁の数,時間などの制約の中で,3〜4品の料理を調理します。各料理の⼿順を分解し,その要素を⾒通しを持って組み合わせることで,温かい料理が提供できます。組み合わせの⽬的は温かさだけではありません,班ごとに速さや味などにこだわりを持ちながら,調理⼿順を検討しています。⽣活や学びの改善を⽬指したアンプラグド教材です。このように調理を考えると,ご家庭で料理を⼿際よく作っている主婦や主夫の皆さんは,⾼度なプログラミング的思考の持ち主であることがわかります。

調理実習の様子

9 年間を⾒通した系統的なカリキュラムの開発

つくば市は,中学校区で学園を組織し,9 年間の⼀貫教育を進めています。プログラミング教育も,9 年間を⾒通したカリキュラムを組織しています。図は,主に教科学習と連動したプログラミング学習のモデルプラン【コアカリキュラム】です。

発達段階に応じた1~9年のプログラミング学習系統表

1〜5 年⽣は,画⾯上のキャラクタを動かすなど,コンピュータ内で完結できるプログラミングを中⼼とします。6 年⽣以上は,センサーやモーターを接続し,コンピュータの外となる実世界の計測や制御ができるプログラミングを中⼼とします。プログラミング⾔語は,プログラミン(1〜2 年),Scratch(3〜6 年),JavaScript ブロックエディター(6〜9 年)を利⽤しています。

JavaScript ブロックエディターは,テキストベースプログラミングに発展させることも可能です。6 年⽣以降で利⽤するセンサーボードは,主にマイクロビット(Microbit 教育財団)を利⽤しています。

1年生のプログラミング学習

6年生のmicro:bit実践

この他に,コアカリキュラムを発展させた,各学校独⾃の取り組み(オリジナルカリキュラム)や,アンプラグド教材を実施しています。プログラミングスキルの習得には,ある程度の時間が必要です。コアカリキュラムだけであっても,教科の時間だけで実践するのは困難です。そこで,つくば市は,基本スキルの習得や創造的な発展学習は,つくばスタイル科(総合的な学習)の時間と連携し,横断的に実施しています。

各学園のカリキュラムマネージメント

プログラミング教育は始まったばかりです。【コアカリキュラム】と称したモデルプログラムを策定していますが,計画と学習者や教師の実態が離れていることもあるでしょう。子ども達も教師も,学年進行に伴い加速度的にプログラミングスキルが向上する可能性もあります。もちろん,総合的な学習やオリジナルカリキュラムとの連携も変化します。更には,時代の変化に伴いプログラミング環境(プログラミング言語やセンサーボード)も変わることでしょう。これらの課題に迅速に対応するのが,カリキュラムマネージメントです。

各学園のカリキュラムマネージメントをサポートするために,つくば市は幾つかの手立てを用意しています。第一に,コアカリキュラムの改善です。つくば市は,各中学校区から選出されたICT推進委員が,各学園の実践を活性させたり,その実践を整理してきました。今後,ICT推進委員は,コアカリキュラムの更新も進める予定です。第二に,各実践を学校を越えて交流させ,そこでの気付きをカリキュラムマネージメントに活かそうとする取り組みです。例えば,毎年発行している実践事例集は市内全ての学校の実践が掲載され,次年度の取り組みの参考になります。市内全体が,同一のカリキュラムであることを生かし,プログラミングの成果は,電子掲示板やプログラミングコンテストで交流しています。他者との交流は,児童・生徒の意欲と創造性を高めると共に,教師の授業改善の手がかりになっています。

児童・生徒も教師も学ぶチュートリアル教材

これまでの教師の役割は,自身が理解している内容を児童・生徒に理解させること(伝えること)でした。教師は,児童・生徒以上に知識や技能を身につけていることが前提です。しかし,多くの教師がプログラミングの知識や技能を持ち合わせていません。今,全国の教師は,プログラミング教育に不安を感じています。その不安は,伝えるべき知識や技能が不足していることが原因です。

プログラミングの授業を成立させるには,教師の持つ教授・学習観を変えていく必要があるでしょう。知識を持った教師が一方的に教えるのでなく,教師も学習者として,児童・生徒と一緒に学ぶことが大切です。つくば市は,全ての教員がプログラミング教育に関われるように,コアカリキュラム用のチュートリアルビデオとワークシートを開発しています。教師は,子ども達にプログラミング環境とワークシートを用意します。後は,教師も子ども達と一緒に,チュートリアルビデオを見ながら,プログラミングを学びます。ビデオは,問題解決的な授業となるように作成されています。お互いに試行錯誤をしながら,時には,教師と児童の役割が逆転することもあるかもしれません。このような新たな学習において教師に必要なのは,プログラミングの能力ではなく授業のねらいとゴールを理解し,子ども達を導くことです。そのための教師用解説書も用意しています。

チュートリアルビデオ

小学1年生 国語「スイミー」ワークシート

エキスパートを育成するプログラミングフェスタ

各地のスーパーに無人レジが導入されたことからもわかるように,人口知能は急速に発展し,社会構造も変化しています。AIとの関係は,AIに使われる人間,AIと共存する(使いこなす)人間,AIを作る人間に大きく分類することができます。プログラミング的思考やプログラミングの基本スキルの習得は,人間がAIと共存するために必要な力でしょう。一方で,AIを作る人材やイノベーションをおこす人材の育成も必要になるはずです。

つくば市には,非常に優れたプログラミング能力をもつ児童・生徒が多数在籍しています。学校のプログラミング学習によって関心を高め,より高度な活動を期待している児童・生徒もいます。これらの児童・生徒の中から,AIを作る人材,イノベーションをおこす人材が生まれる可能性も大いにあります。

つくば市は,プログラミングのエキスパートを目指す子ども達のために,近隣の大学や企業と協力した講座を開催しています。夏休みに,一人一台の小型Linuxサーバ(Raspberry pi)を使い,サーバ構築やインターネットセキュリティを学ぶ講座を開催しています。また,学校のプログラミング学習を発展させた内容の講座も開催しています。夏休みの長期休業を利用することで,試行錯誤の時間が十分に確保でき,創造的な作品を作成できているようです。

つくばプログラミングフェスタ2018

つくばプログラミングフェスタ2018の記事

プログラミングは,入力された(決められた)情報だけにしか反応しないなど,特別支援児の特性に合致する場合もあります。高いプログラミング的思考を持つ特別支援児も沢山いるはずです。つくば市は,特別支援児の能力の伸長を目的とした,プログラミング教育の開発にも力を入れています。

おわりに-AI時代の学校教育-

AI時代に生きる学習者のために,プログラミング教育が導入されました。その目的は,プログラミング的思考を身につけることです。「人間にしかできないことコンピュータが得意なことを見極める」ことも目的に加えてはどうでしょうか。

AIの東大ロボが,東大合格を諦めたニュースは記憶に新しいことと思います。東大ロボは,定型の問題であれば高得点が期待できるが,物語の情景や心情を回答することは困難のようです。コンピュータは,同じことを,間違えることなく何度でも行うことや,沢山の情報を保存し検索することが得意です。しかし,東大ロボのように,意味を深く理解しないといけないことを聞かれると,とたんに難しくなります。意味を深く理解し判断することは,人間が得意とする活動なのです。

現状はどうでしょうか。「東ロボくん」のプロジェクトリーダーである新井氏(国立情報学研究所社会共有知センター)は,児童・生徒は,コンピュータと同じように「キーワードとパターンで解いている子、読んでいる子」が多いとしている。コンピュータと同じ活動をしていては,その力はすぐにAIに取って代わられてしまう。これからの教師は,プログラミングやICTの有無,新学習指導要領の実施等に関わらず,思考・表現・判断を育む質の高い教育を提供すべきでしょう。この点は,つくば市の21世紀型スキルの育成の取り組みを参考にして欲しいと考えています。

宇都宮大学教授 久保田善彦